初めてのスタン・ゲッツとのツアーはアメリカ西海岸でした。
最初に行ったのはロスアンジェルスでドラマーのシェリー・マンが経営していた「シェリーズ・マン・ホール」。半地下みたいな所にある大きな洒落たジャズクラブで真ん中辺にバーカウンターがあり、開放的ないかにもカリフォルニアのジャズクラブという感じでした。
その頃スタンがよく演奏していた曲はチック・コリアの曲やボサノバ、スタンダード等でしたがまだ僕はアメリカという国に慣れていなくて毎日が夢見心地で足が地に着いていない状態でした。チック・コリアのスパニッシュモードの曲でフリーベース・ソロがあったのですが、あまり張り切りすぎてスタンにソロが長すぎると注意されました。一生懸命やっているのを示せば評価されるというものではないですよね……
メンバーはピアノがアルバート・デイリーとドラムがまだ20歳前後のトニー・ウィリアムスの影響をうけているマーティー・バーカーという人でスタンが白人、ピアノとドラムが黒人、ベースが日本人という当時としてはユニークなバンドだったと思います。
大体その頃東洋人がジャズを演奏しているのはまだ珍しい時代でしたから、目だったかもしれません。
シェリーズ・マン・ホールのgigは一週間でしたが、最後の方(週末)にはシェリー・マンがステージに上がってきて一緒に演奏しました。
スタン・ゲッツもシェリー・マンも日本にいるときは雲の上の存在だったのでそうやって一緒に演奏しているのは何か不思議な気持でした。
カリフォルニアのアメリカ人は本当に気さくで街を歩いていて人に会うと知らない人でも「ハーイ」という挨拶をするので、違う国に来たんだなという実感が湧いてきてワクワクしたのを覚えています。
ロスアンジェルスでのハイライトは、ある日スタンが友人の所でパーティがあるからみんなで行こうと誘ってくれ、車でビバリーヒルズの丘を上がって行くとその家の門を入ってから5分走っても建物が現れない。どうした事かと思っていたら見えてきたのは御殿みたいな家で中に入ったらまず目に飛び込んできたのはとてつもなく大きな窓ガラスそして向こうに広がる庭園。まるでどこかの王様の宮殿に行ったみたいに池があり遠くの方には浮かび上がるライトアップされた噴水。これがいわゆるアメリカの金持ちが住んでいる家なんだとそのスケールの大きさにただ唖然という感じでした。
その家の住人はもしかすると有名人で集まっていた200人くらいの人たちの中には著名人も沢山いたのかも知れないけど、僕は舞い上がっていて何も覚えていないです。その家のキッチン、バーもすごかった。キッチンの冷蔵庫は50人分の食料が1週間分位貯えられるのではないかと思われるほど沢山あり、酒の種類は世界中のあらゆる酒が集まっているのではないかと思うほど種類がありました。
世の中にはこういう金持ちも居るんだという事を教えてくれたパーティーでした。
鈴木良雄