ジャズ ベース:ベーシスト鈴木良雄オフィシャルサイト

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(8) もう少しアートとの事

アートは本当に絶え間なく仕事をしている人だと前に書きましたが、NYに居る時はジャズクラブ出演のほかにジャズモービルなんていうのもやりましたよ..。
これは東京では考えられないNYの夏の風物詩ですが、軽トラックの上にアップライトピアノとPA等がセットしてあってそこにステージを作り、NY中、公園やビルの間のちょっとした広場などで演奏するもので、なにせ車だからどこにでも移動出来る訳です。一度は車に乗ったまま街を練り歩く事があり、ほんの少しの距離だったけど必死にベースを持って演奏した事もありました。まだやってるのかな…..。

後にアートのところを止めてから、「ビル・ハードマン・ジュニア・クック クインテット」にいた時ジャズモービルでハーレムで演奏しました。その時はバンドメンバー全員黒人、オーディエンスも全部黒人、僕だけが日本人でジャズを演奏している。僕は少しでもジャズを上手く弾けるよう、一生懸命努力しているけど周りはただ本当に心からジャズを楽しんでいる。
その時何か僕に突き刺さってくる疑問が湧いてきたんです。自分て何だろう?アイデンティティは何なんだろうという事です。
そのことに関してはまたゆっくりと書きたいと思います。

本当にNYはおもしろい所です。
何しろ世界中からミュージシャンも含め人々がNYに集まってきて何かをしようとしている。こんな都市はNYしかないですよね。
東京が日本の中心である様に、NYは世界の中心なんです。それだけにあらゆる民族が住んでいて、エネルギッシュで最高に面白い所でもあり、また特にお金がないとこれほど辛いところもないです。生活も人間も最高から最低まで全部あって、自分がどこへ行こうどうなろうとだれも忠告、助言等してくれない。でも誰にも気を使うこともなく誰にも何も言われないという事は反面この上なく嬉しい“自由”がある。
この“自由”というのがアメリカ人が求めて手に入れたものですよね。しかしその代償が“孤独”。この“孤独”というヤツが曲者でNYは1人で居ると本当に寂しい。
近くに日本人の親しい友達のミュージシャンが住んでいたんだけどやはりNYにいると愚痴を言ったり、飲んで慰めあったりという事ができない。話をしていてもある一線を引いてお互いそれ以上接近しないように自然になっちゃうんですよね。
個人主義とは独立と自由というすばらしい面がある一方で孤独というものが必ず付きまとうんです。
日本はその点、皆でワイワイやっている感じで暖かいんだけど全体主義で自由さがない。
どっちもどっちですかね。それとも中間がいいのかな…?

そんな事を感じながら時には鏡の自分に向かって話しかけちゃうなんていう本当に孤独で寂しい時もありましたが、アートのバンドで一緒にやっていたトランペットのビル・ハードマンには助けられました。いつも優しくて僕のことを気づかってくれ、“Chin, are you alright?” と声をかけてくれ随分慰められました。

当時音楽家としてのBASSの腕はまだまだ発展途上にあり、毎日あーでもない、こーでもないの連続で、楽器もいじり過ぎて駄目にしちゃったり、年中売ったり買ったりもしていました。今考えると自分が何なのかまだ見えてなくてup & downの連続だったような気がします。
アートとの共演の日々はそのすごさ故、色々な事を考えさせられ、僕の人生に大きな刺激を与えてくれたと思います。
とにかくアメリカで名前が出ているミュージシャンは普通じゃないです。何か特別に他に誰も持っていないものを持っていないと本物として認められません。
厳しい世界です。

鈴木良雄


 


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