ジャズ ベース:ベーシスト鈴木良雄オフィシャルサイト

ジャズ ベース:ベーシスト鈴木良雄オフィシャルサイト

(7) メッセンジャーズのツアー

アートとは本当に沢山ツアーに出ました。
もちろんアメリカ国内が多く、良く行った都市はシカゴ、デトロイト、クリーブランド、ボストン、フィラデルフィア、ボルティモア、ロスアンジェルス、サンフランシスコ等です。
移動手段は飛行機か車が主で列車移動は余りなかったけど、結構アートは車の運転が好きで自分でワゴン車を運転して西海岸までは行かないまでも中西部位までは行っていました。
今ではアメリカの大統領が黒人になるほどアメリカは大きく変化しましたが、当時はまだまだ人種差別が表面的にはないとされながらも実質的にはまだ色濃く残っている世界でした。

“Art Blakey & the Jazz Messengers”は当時はすでに世界的に名が知れ渡っていましたが、実際の生活はそんな派手なものではなくメンバーのギャラも大したことなく泊まるホテルも車移動が多いせいもあってモーテルが多かったです。 クリーブランドに行った時、街の中心を境に黒人地区と白人地区がはっきりと分かれているんですが、ジャズクラブは黒人地区にあり泊まったホテルもクラブの側の超ファンキーなホテルで、それでも若かったせいか何とも思わないでいましたが、とにかく荒れた地域で周りにレストランやスーパーマーケット等何もなくてやっと見つけたのはチャイニーズのテイクアウトの店。その時驚いたのは入ったらいきなり防弾ガラスの仕切りがあって、向こうにいる店員と話をするのはマイクを通してで、食べ物と料金の受け渡しはガラスの下のほうに空いている穴からまずお金をいれてそれから注文した品物が出てくるという日本では到底考えられないシステムでした。 それだけ物騒な所という事で自衛のために仕方ないんだろう
けどそこまで人を信用できない殺伐とした世界なんだという事を思い知らされました。
そのテイクアウトしたチャイニーズ・フードをホテルに持ち帰ったらホテル中何か ご飯を炊いたような変な匂いが充満していて何だろうと思ったら、サックスのデイヴィッド・シュニターがその頃マクロバイオティック(玄米を中心とする自然食主義で肉類は一切食べない)に凝っていてホテルの部屋で玄米を炊いていてその匂いが洩れ周りの部屋からコンプレインが来て大騒ぎになっていました。
実は僕もNYで一年くらいマクロバイオティックにハマっていたときがありました。
僕の場合はそれほど厳しくはなく魚は時々食べていましたが肉類を一切食べずに過ごしていました。一年くらい経ったらすごく痩せてしまい、なんか体が宙に浮いたみたいになってヘロヘロになったので止めてしまいましたがいい経験にはなりました。

その頃のメッセンジャーズのバンドメンバーはビル・ハードマン(tp)、デイヴィッド・シュニター(t・sax)、ピアノはよく変わったのでウォルター・デイヴィス・ジュニアーかロニー・マシューズが主にやっていたと思いますが、黒人3人、白人1人に日本人の僕という編成でした。
当時のアメリカを黒人中心のジャズバンドが旅するというのは決して楽なものではなかったけど、とにかく音楽は素晴らしかった。
やはりリーダーのアートは毎日エネルギッシュで繊細な演奏をしており、その有無を言わせない説得力のあるドラミングは持って生まれた稀に見る天性の光を放っていました。毎日同じようなフレーズでソロするんだけど毎日楽しめる。もっともっとやって、もっと聴かせてという気持にさせてしまうんですよね……
アートのドラムを聴いているとやっぱりその体の底、血にあるアフリカが色濃く聞こえてきます。一度始まったら決して止まる事のないあの熱いビート、きれいでしかも力強い太くて男らしいドラムの音、もう毎日僕はアートの隣でうなされた様にベースを弾いていました。
まず音楽は何よりも音色が一番、綺麗な音色抜きでは何も始まらないという事を徹底的に叩き込まれました。

きれいで力強いという一見正反対に思える音楽を追求していくことが一生の課題だと今でも思っています。
アートはその頃僕に対して何も要求もアドバイスもせず、ただひたすら音でやるべき方向を示してくれていたと思いますが、時々言われた事はただ一つ、“Hey, Chin.  RELAX!” でした。
実は今でもこれが一番難しい事で、RELAXというのは自然体で気負うことなく 邪心を捨て、楽しんで演奏しろと言うことなんですが、それがなかなかその域に達しないんですよね……。
意識して無になろうと思っても、なれない。眠ろうと思っても意志の力では眠れないのと同じですね。
とにかくアートとの2年余りの共演は一生の課題と、又音楽とは何かということ、そして自信と勇気を与えてくれました。
アートのあの太陽のような誰をも包んでしまうドラミングの奥には実は黒人である事の苦しみと誇りが同時に入り混じった複雑な思いがあり、僕も何回もそれを感じ、また見ました。
人の一生や心の中には昼と夜が必ずあるんですね…..。

鈴木良雄
 


(C)1997-2013 Friends Music